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幻と現の狭間―ある夜の出来事―

補完のためのSS。
何の補完かと言われたら…何のだろう。(何

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WinterLaugh Side-S

「プレゼント交換とか、しない?」

夕食の中、どこか落ち着かない感じで切り出したのは咲だった。

「プレゼント交換か……ふふ、面白い。その提案、乗った。」

俺はすぐに承諾する。何より拒否する理由が見当たらなかったのだ。
ふと視線を感じ、首をめぐらせると柊斗と目が合う。
興奮したような表情。自分も参加したいと顔に大きく書いてある。
口角を上げて応えてやると承諾だと分かったらしく、大きく頷いた。

近しいものや、輝紗にクリスマスプレゼントを贈ることはあっても、
誰に渡るか分からないプレゼント交換は何時振りだろうか。
夕食を終え、各々の時間を過ごし始める仲間達の顔を眺めていく。
出逢ってからようやく1ヶ月。しかし、死線を共に潜り抜けた所為もあって、
何年もの時間を共有しているような気さえした。
この友人達の誰に当たっても驚きと笑いが顔を彩るようなプレゼントを考えたい。
これも1つの戦いだ…そう思うと、わくわくした。

皆の座っているのが一望できる高台に場所を移し、一人静かに考えをまとめる。
自分らしいのは…やはり書か。しかし、意外性が無い…。
右手で小筆を回し弄びながら、知恵熱が出るのではと思うほどに頭を悩ませる。
難題だ。輝紗にも咲にも、フィーア、ガルニック、騎流、柊斗にも、各々に渡したいモノならば考え付く。
しかし、誰にでも等しく驚きと楽しさを与えるとなると…これはかなりの難題だった。

「面白いが…難題過ぎる、な。」

むぅ、と唸りながらひとりごちていると背後に気配を感じる。
この感じ―足音が極端に殺され、落ち着いた足取り―は…騎流か。

「彩樹…あなたは何を用意しましたか?」

いつものような、否、いつもよりは困った感を出した声音で訊ねてくる騎流に俺は視線を皆の方に向けたまま強がってみせる。

「何だ騎流か…。プレゼント?あの類の品は内緒で用意するから楽しいんだろう?」

ふふん、と鼻で笑ってみせるというオプションも付けて、精一杯の強がりをするには理由がある。
これくらいしてやらねば騎流を欺けない。
互いに笑顔で強がりを言う仲だからこそ、分かることもあった。
そして心の準備も忘れない。いつもならば、実は決まってないのだろうと鎌をかける程度のことはするだろう。

「まぁ」

さぁ、来い。次のセリフはお見通し―

「そう…ですよねぇ…」

ではなかった。珍し過ぎる。まさか、これも演技か…?

「雪…」

消え入りそうな声で騎流が呟く。

「雪?なんだ、雪でも降らせる気か?」

「いえ…」

俺の反応に口篭る騎流。おかしい。普段の騎流ならば饒舌に喋るハズだ。
そう、それは沈黙が負い目に見えるタイプの人間だということを自覚している証拠。

「皆、先の戦いで消耗していますからね。雪でも降らせれば、雰囲気も出るかと。」

滑らかに出てきた言葉は当たり触りの無い動機。しかし今さらだった。

「ふん…お前にしては珍しいな。綻びのある嘘を吐くとは…。」

「…どこか不自然な所でも?」

顔を見なくても分かる。あの笑顔が引き攣っている。どうやら図星だったようだ。
俺の勝ち、だな。そう心の中で笑ってから優位に立つ。

「…馬鹿者が。俺に隠し事が出来ると思うな。」

そして考える。騎流がここまで考え込むような動機を。
騎流の視線の先には仲間―否、咲だけが居た。

「そうだな…」

俺は込み上げる笑いを上を向いて空に逃がし、続ける。

「雪という字は雨冠に彗…ほうき、はくという字が連なったものだ。万物を掃き清めるという意味だそうだ。」

言いながら横目で見る騎流の笑顔は陶器のように青白く硬く、目は泳いでいる。
その目の前に指を立て

「こうして…こうだ」

雪の字を空書する。白く儚い雪の像が騎流の瞳に映る。
念の篭められたそれは己の真の姿に近付いてから消えた。

「どうした、お前もやるんだぞ。騎流。」

フリーズしたままの騎流に喝を入れる。

「…何をです?」

呆ける騎流。早く気付けと言いたいのを我慢する。

「これは幻術の類だ。だからこそ、字の意を教えたんだ。」

「……はぁ」

プツン、俺の中で堪忍袋の緒が簡単に切れる。

「だから…雪を降らせるぞと言っているんだ、まったく…!」

パチンと指を鳴らし小筆を1本喚ぶ。
黒い柄に白銀の毛並が美しい小筆、それを騎流に放る。

「貸してやる、心じゃ足りん。魂を込めて書け。」

鼻を鳴らして、笑う。

「っふふ、幻術の訓練ですか…。次は負けませんよ?」

やっと、騎流らしくなった。

「ふん…どうだかな?」

俺は書家…本業だぞ?と付けたし、視線を騎流から咲へ向ける。

「さて…」
「それでは」

言いたいこと、言えないこと―今はそれを筆に篭めて。

「始めるか」
「始めましょうか」

2人の男は手を上げた。

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WinterLaugh Side-K

「プレゼント交換とか、しない?」

唐突に咲が言った言葉が始まりだった。


クリスマスでなくともプレゼントを貰ったり渡したりということに無縁だった騎流は酷く焦っていた。

何を渡せば良いのだろう。こんなとき、あの人―祈流はどうするだろう。
そんな事を考えてみても、記憶の中の彼は意地悪く微笑んでいるだけだった。
とりあえず彩樹にでも話を聞いてみようか、そう思い立って視線を彷徨わせる。
彼はいつの間にか、皆から少し離れた、この場所が見渡せる少し高い場所にいた。

何か呟きながら唸っている彩樹に背後から近付く。
職業柄、気配と足音を消すのは癖のような感じだったが、彼は微かに反応する。
もしかしたら野生の勘か何かが通常より発達しているのかもしれない。

「彩樹…あなたは何を用意しましたか?」

少し困った―現実には大分困っているのだが―ような声を装う。

「何だ騎流か…。プレゼント?あの類の品は内緒で用意するから楽しいんだろう?」

彩樹は相変わらず真意が読み辛い表情で、皆が集まっている辺りをぼんやりと眺めている。
鼻で笑いながら言う彼の横顔は、顔に似合わず無邪気な子供のような、心底楽しんでいるといった雰囲気を漂わせていた。
しかし何と言っても、尋問を尋問とも思わず、さらりと受け流す辺りは子供以上に性質が悪い。

「まぁ、そう…ですねぇ…」

諦観を滲ませ、白く細く溜め息を吐き出しながら、彩樹の視線の先を眺める。
その時、ある記憶が頭を過ぎる。
それは虹夜祈流からの小さな奇跡の贈り物。

「雪…」

口から、言葉が零れる。

「雪?なんだ、雪でも降らせる気か?」

ふふん、と彩樹が笑う。

「いえ…」

なぜ、思い出したのだろう。
視線の先には、輪の中で笑う彼女。ぼろぼろの時でも笑っていた彼女。
彼女は、あの人に似ているのだろうか。
それとも、若かったあの日の自分に似ているのだろうか。

この遺跡の中で、一瞬でも雪を降らせてみせれば、あの子は心の底から笑ってくれるだろうか。
瞳の底に、その小さな体に、重く暗いものを宿し纏わせている彼女の心を…ほんの少しの間だけでも、何にも染まぬほどに白く覆えるだろうか。

「皆、先の戦いで消耗していますからね。雪でも降らせれば、雰囲気も出るかと。」

零れ落ちた言葉を取り繕うための言葉は、先ほどまでとは比べるまでもなく、滑らかに響く。

「ふん…お前にしては珍しいな。綻びのある嘘を吐くとは…。」

被せるように言い放つ彩樹の視線の先が此方の視線の先に重なる。

「…どこか不自然な所でも?」

笑顔が凍りつき、引き攣る。
何でこんなに緊張しているのだろうか。

「…馬鹿者が。俺に隠し事が出来ると思うな。そうだな…」

彩樹は少し唸ってから、空を見上げて、言葉を続ける。

「雪という字は雨冠に彗…ほうき、はくという字が連なったものだ。万物を掃き清めるという意味だそうだ。」

引き攣った笑顔がさらに引き攣るのが分かる。
この男はこっちの考えていることまで見通しているのか。野生の勘もここまで来ると恐ろしいモノに感じる。
そう思っていると、いつの間にか彩樹がこちらに視線を戻していた。

「こうして…こうだ。」

突然手が顔の高さまで上がったかと思うと、すらりと伸びた人差し指がゆっくりと、しかし素早く、静かに動く。
彩樹が指先で空に書く“雪”の字は光を帯びて浮かび上がり、ぼぅっと白い雪のようになって、ゆっくりと消えていく。
思わず見入ってしまうほど、その光は幻想的だった。

「どうした、お前もやるんだぞ。騎流。」

何を呆けている、と言わんばかりに彩樹は言う。

「…何をです?」

真意が分からない。

「これは幻術の類だ。だからこそ、字の意を教えたんだ。」

慣れない遠回しの言葉にいらついているのが分かる。

「……はぁ」

だが、まだ分からない。

「だから…雪を降らせるぞと言っているんだ、まったく…!」

もういい、と言わんばかりに直球が放られる。

「え…」

呆気に取られている間に、彩樹は、どこからか取りだした小筆を持ち、1本を投げて寄越す。

「貸してやる、心じゃ足りん。魂を込めて書け。」

雪を…降らせる。
遅れて認識できた言葉が、徐々にはっきりとした形になっていくのが分かる。

「っふふ、幻術の訓練ですか…。次は負けませんよ?」

自然に笑みが零れる。強がりではない、透明な感情。

「ふん…どうだかな?」

鼻で笑う彩樹を横目で見てから、視線を彼女へ向けて。

「さて…」
「それでは」

筆を持つ手に力を入れて

「始めるか」
「始めましょうか」

2人の男は手を上げた。

(↓絵が出る、大きい、注意。)


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もうすぐ、クリスマス。

ふと、編み物の手を休めた。
茶室の窓から空を見上げて星を見る。

「今年のクリスマスは、パパとママには何もあげられないかな……二人とも元気にしているといいけど」

呟く声は、真っ白な吐息とともに。
まあ、あの二人に限って元気じゃないなんて、考えられないけど――。
独りくすくすと笑えば吐息はほわほわと空へ消えていく。

「柊ちゃんには、プレゼント用意できるけど、なんだかそれだけっていうのも淋し……あ」

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

「と、いうわけで」

何が「と、いうわけ」なのかはこの際置いておく。
一日の終わり、全員が集まってゆっくりと寛ぐ時間――夕食の時間に彼女は切り出した。

「あのね、提案なんだけど……もうすぐ、クリスマスでしょう? プレゼント交換とか、しない?」

視線が集まる。
頬を軽く染めて、慌てたようにぱたぱたと手を動かした。

「ええとえと……っ。その、もちろんみんながよければ、なんだけれど。そんなに高いものじゃなくて、雰囲気を楽しもう、って……」

彼女が説明するには、参加する全員がプレゼントを持ち寄り、クジで誰のものが当たるかを決めよう、ということらしい。


「――だ、だめかな?」

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