| Main |
2007-12-23 Sun
「プレゼント交換とか、しない?」
唐突に咲が言った言葉が始まりだった。
クリスマスでなくともプレゼントを貰ったり渡したりということに無縁だった騎流は酷く焦っていた。
何を渡せば良いのだろう。こんなとき、あの人―祈流はどうするだろう。
そんな事を考えてみても、記憶の中の彼は意地悪く微笑んでいるだけだった。
とりあえず彩樹にでも話を聞いてみようか、そう思い立って視線を彷徨わせる。
彼はいつの間にか、皆から少し離れた、この場所が見渡せる少し高い場所にいた。
何か呟きながら唸っている彩樹に背後から近付く。
職業柄、気配と足音を消すのは癖のような感じだったが、彼は微かに反応する。
もしかしたら野生の勘か何かが通常より発達しているのかもしれない。
「彩樹…あなたは何を用意しましたか?」
少し困った―現実には大分困っているのだが―ような声を装う。
「何だ騎流か…。プレゼント?あの類の品は内緒で用意するから楽しいんだろう?」
彩樹は相変わらず真意が読み辛い表情で、皆が集まっている辺りをぼんやりと眺めている。
鼻で笑いながら言う彼の横顔は、顔に似合わず無邪気な子供のような、心底楽しんでいるといった雰囲気を漂わせていた。
しかし何と言っても、尋問を尋問とも思わず、さらりと受け流す辺りは子供以上に性質が悪い。
「まぁ、そう…ですねぇ…」
諦観を滲ませ、白く細く溜め息を吐き出しながら、彩樹の視線の先を眺める。
その時、ある記憶が頭を過ぎる。
それは虹夜祈流からの小さな奇跡の贈り物。
「雪…」
口から、言葉が零れる。
「雪?なんだ、雪でも降らせる気か?」
ふふん、と彩樹が笑う。
「いえ…」
なぜ、思い出したのだろう。
視線の先には、輪の中で笑う彼女。ぼろぼろの時でも笑っていた彼女。
彼女は、あの人に似ているのだろうか。
それとも、若かったあの日の自分に似ているのだろうか。
この遺跡の中で、一瞬でも雪を降らせてみせれば、あの子は心の底から笑ってくれるだろうか。
瞳の底に、その小さな体に、重く暗いものを宿し纏わせている彼女の心を…ほんの少しの間だけでも、何にも染まぬほどに白く覆えるだろうか。
「皆、先の戦いで消耗していますからね。雪でも降らせれば、雰囲気も出るかと。」
零れ落ちた言葉を取り繕うための言葉は、先ほどまでとは比べるまでもなく、滑らかに響く。
「ふん…お前にしては珍しいな。綻びのある嘘を吐くとは…。」
被せるように言い放つ彩樹の視線の先が此方の視線の先に重なる。
「…どこか不自然な所でも?」
笑顔が凍りつき、引き攣る。
何でこんなに緊張しているのだろうか。
「…馬鹿者が。俺に隠し事が出来ると思うな。そうだな…」
彩樹は少し唸ってから、空を見上げて、言葉を続ける。
「雪という字は雨冠に彗…ほうき、はくという字が連なったものだ。万物を掃き清めるという意味だそうだ。」
引き攣った笑顔がさらに引き攣るのが分かる。
この男はこっちの考えていることまで見通しているのか。野生の勘もここまで来ると恐ろしいモノに感じる。
そう思っていると、いつの間にか彩樹がこちらに視線を戻していた。
「こうして…こうだ。」
突然手が顔の高さまで上がったかと思うと、すらりと伸びた人差し指がゆっくりと、しかし素早く、静かに動く。
彩樹が指先で空に書く“雪”の字は光を帯びて浮かび上がり、ぼぅっと白い雪のようになって、ゆっくりと消えていく。
思わず見入ってしまうほど、その光は幻想的だった。
「どうした、お前もやるんだぞ。騎流。」
何を呆けている、と言わんばかりに彩樹は言う。
「…何をです?」
真意が分からない。
「これは幻術の類だ。だからこそ、字の意を教えたんだ。」
慣れない遠回しの言葉にいらついているのが分かる。
「……はぁ」
だが、まだ分からない。
「だから…雪を降らせるぞと言っているんだ、まったく…!」
もういい、と言わんばかりに直球が放られる。
「え…」
呆気に取られている間に、彩樹は、どこからか取りだした小筆を持ち、1本を投げて寄越す。
「貸してやる、心じゃ足りん。魂を込めて書け。」
雪を…降らせる。
遅れて認識できた言葉が、徐々にはっきりとした形になっていくのが分かる。
「っふふ、幻術の訓練ですか…。次は負けませんよ?」
自然に笑みが零れる。強がりではない、透明な感情。
「ふん…どうだかな?」
鼻で笑う彩樹を横目で見てから、視線を彼女へ向けて。
「さて…」
「それでは」
筆を持つ手に力を入れて
「始めるか」
「始めましょうか」
2人の男は手を上げた。
(↓絵が出る、大きい、注意。)
続きを読む▽
by キール
